2005年04月19日

§3−2 ビジョンの前に必要な構想とは?

9ecf23bf.JPGIBM前会長のルー・ガースナー氏は、コンピュータ業界の様相が一変し、大赤字から消滅の危機に瀕していたIBMで、ハード機器のハコ売りから、ソリューションの提供へとビジネスモデルの大転換を図りIBMを立て直したことで有名である。そのルー・ガースナー氏の最初の宣言が「いまIBMに足りないのはビジョンだけだ」ということであるらしい。

閉塞状況にある30億前後の中規模企業で、その構造改革を進めるときには、同じ宣言をすることとなります(もちろん、その前に戦術力を強化することが前提条件となります)。しかし、「それはわかっているがビジョンを描けないから困っているんだ」という事実があります。また、社長自身の仕事が日常のオペレーションに偏ってしまうという、「悪貨が良貨を駆逐する」ことがあるからです。

「これではいかん?」ということで“ビジョンの構築と戦略の策定”に挑戦するわけですね。そして、前回に話しましが、経営書に書いてあるように経営理念からビジョンを描こうとするのですが、うまくいかないという体験をするわけです。そこで、現状認識から入り、市場の形勢を読み、現状と将来とのにらみ合いの中で「あっ!わが社のビジョンはこういう形ではないか・・・?」というのがおぼろげながら見えてくると説明してきました。実は、ビジョンを描くにはまだ必要なことがあります。“先見力”というのがどうしても必要になってくるということですね。

「あっ!わが社のビジョンはこういう形ではないか・・・?」というレベルにいたるためには、ある程度の先見力が必要なんです。これこそが“見えないものを見る力”といわれるものですね。つまり、わが社を「・・こういう形・・」とした時に、“時代の波に乗っているわが社”且つ“大きく改革したわが社の姿”が見えるということです。

例えば、プロゴルファーがパットをする際に、あっちに行ったりこっちに来たりと地面や芝目を見ていますね。おそらく彼らには、それによって自分の打つボールの転がり具合や曲がり具合が見えて、最終的にホールに入るのが見えているわけです。非凡な人ならいざ知らず、平凡な社長には、最初から先見力でビジョンを描くことはできません。しかし、さきほど申し上げたように、現状をしっかりと分析し、環境変化の大きなトレンドを把握して、現実と将来の間を行ったり来たりしている間に、「ふっと浮かぶ」という先見力が発揮できると思われます。長年社長として苦悩の中で意思決定を重ねているうちに、このような従業員には見えないものが見える力がついているものです。

但し、先見力だけでもダメなんです。「わが社のビジョンはこういう形ではないか・・・?」というのははっきりと見えていないものです。なんとなく見えているというものです。その“なんとなく見えている姿”を具体的にすることができないとビジネスとしては役に立たないものに終わってしまいます。「わが社の未来図」を確立していく仕組を構想することです。

“ビジョンの構築と戦略策定”がますます遠くなったですって・・?そうではなくて、そこまで考え抜かなければ21世紀の“複雑なビジネス界”で勝ち抜くことはできないということをいっているんです。そうはいっても、企業を経営する社長としては、先見力や構想力が高まるようなことはしておく必要はあります。三つほど思い浮かぶことがあります。

一つは、人材ネットワークです。先見力や構想力のある人とのお付き合いをできるだけ行なうようにすることが大切です。よく新規事業を行なうケースがありますが、「新規事業が成功するかどうかは、何を行なうかよりも、誰が行なうかによる部分が大きい」という話をしますが、私の体験から言えば、人材のネットワークがうまくできている人が新規事業を成功させています。色々の人からの“ちょっとしたアドバイス”が非常に大きな成功へのヒントになっているようです。

二つ目に、できるだけ論理的に考えるということです。プロジェクトでメンバーにいつもいうのですが、「それって筋が通らないですよね」、「もっとストーリーにしてください」と。話すことが断片の集まりに過ぎないことが非常に多いですね。ひどい場合は、要するに何をいいたいのかさっぱりわからないということが結構チョクチョクとあるのです。

三つ目に、もっと議論することが重要です。プロジェクトでもそうですが、議論するということがほとんどありません。どうも日本では、反対の意見をいうと人格を否定されているように捉えるのですね。違うのです。議論は、新しい“何か”を生み出すために必要なんです。プロジェクトでは、「徹底した討議のないところに創造はない!」といい続けるのですが・・・。



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