「よしこれでいこう」というビジョンを描き、そのビジョンをなんとしてでも実現するためには、「どうしてもこれを解決しなければならない!」という課題を戦略課題として明確にする。そして、ビジョンを実現する戦略課題を「戦略マップ」としてストーリーにして表現することが大切であることを述べてきました。
ところで、「この戦略は理論的ではないか?」という疑問を時折発する社長がおられます。戦略は、当然“実現性”ということを視野に入れながら検討していくのですが、あまり実現の可能性を強く押し出すとありきたりの戦略しか生まれてこないということがいえます。「なんだこれでは、いつもやっていることの強化に過ぎないではないか?」ということになり、戦略でもなんでもないものが出来上がるのです。従って、戦略を創造するためには、できるだけロジカルシンキングで考えた方がいいのです。さらに、ロジカルシンキングを超える“洞察力”があれば理想的ですね。これによってロジカルシンキングの壁を越えてよりクリエイテイブな戦略ができるのですが。戦略の実現性については、BSC及び戦略課題の具体化計画のときにしっかりと考えることがいいのです。
さて、戦略マップは、例えば3年先のビジョンを実現するための事業戦略をわかりやすく描くことになりますので、当然それは3年後の姿を実現させている戦略が描かれているわけです。それゆえ、これを2年目はどうなっているのか、1年目はどうなっているのか、とブレークダウンしなければなりません。
従来の現状から将来を考えるのとは対照的に、将来から現状を考えるという発想が根底にあります。いわゆる“演繹的に発想する”ということです。これも口で言うのは簡単なのですが、実際にプロジェクトメンバーは四苦八苦します。これは、「習うより慣れろ!」しかありません。
さて、その1年目の戦略を年度経営計画に落とし込むことになりますが、その年度経営計画に大変多くの問題があるのです。年度経営計画は、基本的に「今できること」を行なって最大限の業績を達成することになるのですが、そこではきめ細かな市場の読みと打ち手が必要となります。つまり、多くの年度経営計画は、市場や競合他社や自社という、いわゆる3Cの視点で見つめることがほとんど行なわれていないのです。しかも、最も大事なのは目標設定だと私は思っておりますが、この目標設定が非常に安易に行なわれすぎています。
つまり、苦労しつつビジョンや戦略を検討してきたのですが、それが年度経営計画の段階で生かされないという、アホみたいなことが起こっているオです。これは年度経営計画、あれは戦略と分けてしまっていいるのです。年度経営計画は、ビジョンを実現するための第一年目という位置づけにあることを忘れてしまうのです。なぜこういうことが起こるのかということですね。
常にいうことなのですが、企業・事業を経営する原点は、“夢”や“高い志”だということですが、これが言うほど簡単ではないということです。確かに、ビジョンや戦略を考えて、又考えてとやるのですが、それは“腹の底”から出てきたものではなく、理屈で綴っていくということが起こっているのです。そのため、年度経営計画の段階では、そのことが忘れ去られてしまうということだと思います。
結果として、年度経営計画は、目標は前年対比10%アップ(前年対比3%アップよりは評価できます。しかし、ビジョンで掲げた3年後の目標値を達成するためには年率25%くらい成長しないとダメなのですが)、それを従来どおりの総花的な打ち手を並べてやろうというのです。打ち手と目標が因果関係で結ぶことができないためにPDCAが回らないのです。毎月毎月、PDCAを行なうための会議が開かれるのですが、現実には回っていないのです。そこで何がチェックされているかというと、売上はどうだ?という数値だけですね。そうではなく、「こうしたらこうなるはずだ」という仮説をこそチェックして、場合によっては軌道修正が必要なのかどうかを吟味することなのですね。
年度経営計画は、以上のように二つの業務が並行して行なわれます。一つは、定常業務です。先ほどいったように「今できることを徹底的に行なって最大のの業績を上げて、年度目標を必達すること」です。今ひとつは、改革業務とでも言いますか、今期の業績にはならない、むしろ今期には費用だけが計上されるものです。これこそが3年後のビジョンを達成するための戦略課題の業務ということです。この両者に取り組むことが必要出ることは自明の理ですね。
このことは非常に大事なことです。従来の目標管理では「目先対応」となります。それを防ぐために、部門経営者は常に定常業務と改革業務を念頭に入れて計画を立案することです。まして、昨今の“成果主義”をとると目先対応せざるを得ない状況を作ることとなりますので注意が必要です。成果を査定して、それで報酬の差がつけられるわけですから、当然今期に成果が出ないようなことをわざわざやる人はいなくなりますよね。成果主義、もっと本質を言えば“成果査定主義”をやっていると組織がおかしくなるのは当然ですね。
さて、年度経営計画の話に戻します。私は、年度経営計画は部門経営者の“決意表明”であると位置づけしております。さらに、年度経営計画は“必達するもの”であると。「この事業を将来こうする。そのためにこの一年でここまで行くんだ!」ということです。そこで社長と“経営資源の配分”で交渉することとなるわけです。「従って、人を○人採用する。費用はこれだけ使う」という交渉です。もちろん社長がこれを了解したならば、何か不測の事態が起きたときは自ら乗り込んで目標達成に向けともに汗を流す覚悟が必要となります。権限を委譲するということはそういう緊張関係を作ることに他なりません。
私のやり方は、事業という部分ではなく“全体”を経営することを通じて部門経営者が自ら育つ「場」をつくる、そしてその中で大きな“修羅場”を越えていくことで経営者としての要件を身につけていくことを行なっていくわけです。それは単に「個人として結果を出す」ことだけではなく、「組織として結果を出す」ことが求められます。そこにはベースとしての“意志”と“リ−ダ−シップ”が必要なのです。
参考図は、現在のMBO(目標によるマネジメント)の欠点を補うために生まれてきたMBB(信念によるマネジメント)を示したものです。